安価な肉の高い代償



アニェス・スティエンヌ


ジャーナリスト、グラフィックデザイナー


訳:川端聡子


 先頃、一部大手食品メーカーの総菜に牛肉と偽って馬肉が使用されていたことが判明し、物議を醸している。この騒動で、国際規模の食農複合産業のひずみが明らかになった。新興国の消費量増大に伴う肉の需要激増に直面した結果、その生産システムは次第に製造業の世界的供給網をまねたものになってきている。[フランス語版編集部]




増え続ける肉の消費量


 食品関係のスキャンダルが起こるたび、同じ茶番が繰り返される。政治家たちは豚のようにぶうぶう文句を言い、生産者は牛のようにモオモオと喚き、大規模小売店は羊のようにメエメエと泣きを入れる。みな異口同音に繰り返すのは、「透明性を!」「流通経路証明を!」「ラベル表示を!」といった言葉である。対策が声高に通達され、幾度もしつこく繰り返されている。なぜこうした状況に陥っているのかを理解しようとするには、視点を広げ、「牛肉」入りラザニアのラベル表示からばかりでなく世界地図を見る必要がある。全世界で一連の農業システムが再編のさなかにあるからだ。


 食品生産システムが発展してきたのは、あるたったひとつの目的を追求するためである。それは輸出のための大規模生産であり、特定部門に特化した生産拠点を作ることでより多くの利益を引き出そうとしてきたことである。西ヨーロッパ諸国は、牛・豚肉を輸入し、自国内で消費したり、自国以外のヨーロッパ圏内へと輸出したりしている。新興国の経済が発展するにしたがって食肉需要が増大し、さらにはそれに伴う畜農用地も必要となっている。


 たとえば中国では、この10年間で食肉のひとり当たり年間消費量が55%増えている(注1)。彼らは養鶏工場で鶏を育てるのに南米産の大豆を大量輸入し(大豆は主に中国への輸出向けに作られている)、最近ではアフリカに人間の食糧およびそ家畜の飼料生産用地を確保しようとしているのだ(いわゆるランド・グラビング「土地奪取」である)。どこかの大陸で原料を買い付け、別な大陸で売りさばき、それが第3の大陸へと輸出される。農産という産業も製造業の世界規模の供給網と何ら変わるところがなくなった……。


牛肉1キロのために穀物7キロが必要


 ここ数十年来の農業ビジネスは、このようにどこまでも小規模農家を潰し、生物多様性や地質・水質を損ない、農家あるいは消費者の健康をも破壊する方法で進んできている。かといって地球全体がこれで飢えずに済んでいるわけでもない。2011年には10億もの人々が飢饉のため食物を口にできずにいたのである。数週前より厳しい非難が食肉産業界に集中しているが、これはあらゆる問題を集中的に表現している。もともとは、世界全体の国内総生産(GDP)への貢献が2%に満たない畜産業が世界で18%もの温室効果ガスを排出し、その温室効果ガスが自然資源や地質、そして農作物を侵蝕していると判明したことに端を発している。人間の食糧用に穀物を生産するべきか、あるいは牛の肥育にまわすべきか? こうしたことが問題視されるのは、肉の生産量と穀物収穫量の間には不均衡があり、たった1キロの牛肉を提供するためには少なくとも7キロの穀物が必要であり、豚肉1キロには4キロ、そして鶏肉1キロには2キロの穀物が必要とされるからである。


 農地の68%は牧草地で占められているが(そのうち25%は地質が悪化している)、飼料生産用の土地の35%は耕作に適している。トータルで農地の78%は畜農用地となっているのである。質の悪い食肉生産のため――そしてバイオ燃料のため――土地がじわじわと侵蝕され、最も貧しい市民の生活環境を直撃している。2006年、国際連合食糧農業機関(FAO)は、その年次報告書のなかでこう警告している。「家畜飼料の生産および輸入が増大している。餌の総輸入量が急増し、中国における飼育部門の拡大のせいで価格高騰と世界な穀物不足に至るのではと懸念される」。その後どうなったかはよく知られている。2008年は飢餓による暴動が目立ったが、コート・ジヴォワール、カメルーン、インドネシア、フィリピン等での暴動は、国際マーケットでの前代未聞の原料農産物の価格高騰によって引き起こされたということである。


 世界中が金融危機による最初の衝撃に苦んでいたころ、こうした惨状によって政治リーダーらは生活必需品である食糧への投機取引を禁止すべきと考えたらしい。しかし、実際はそうした措置はまったくとられなかった。穀物の原価コスト低下にもかかわらず、売価は上昇し続けた(注2)。2011年2月に、世界銀行は次のような警鐘を鳴らしている「食糧の国際価格[の上昇]は危険値に至っている。そして、世界の数千万人の貧しい人々を脅かし続けている。こうした高騰によってすでに何百万もの人々が困窮に陥りつつあり、もっとも弱い人々を圧迫している。彼らは収入の半分以上を食費にあてている」(注3)。


 もっとも普及している肉用牛の飼育方法は、放牧とはほど遠い。ブルターニュの田舎の道路で見かけるように、白黒ぶちの牛の群れがのどかにシードル用の林檎の木陰で草を食んでいるのは何ら問題はない。一方、放牧される牛の群れの密度の高さが増大するのに比例して環境問題が悪化する。そして近年、もっとも激しい変化が起きたのは南米における牛の飼育である。圧倒的なオーバーグレイジング(過放牧)が行なわれ、その結果、残されたのは荒れ果てて動物の糞にまみれた土地である。


原料となる家畜も飼料も車のように製造


 生産者たちは新たな土地獲得のため、迷うことなく違法な森林開発という手段に出た。特にブラジルではそれが酷い。ブラジルは世界一の牛肉・牛皮の生産・輸出国で、ブラジルだけで世界市場の30%を占める。主な輸出先はロシアやEU圏だ。「グリーンピース」が実施した2009年の調査報告によれば、ブラジルの巨大な牧畜業——その家畜数は2億頭は下らない——は80%のアマゾンの熱帯雨林伐採に責任がある(注4)。そうして煙と消えてしまった森林は1千万ヘクタールにあたる。小規模農家や原住民は多大な被害をこうむり、大量生産設備の進歩によってさらなる打撃を受けている。40年以上前からNGO団体「Survival」は、畜産業者がブラジルの森林に生きるインディオたちを鏖殺していると告発し続けている(注5)。


 アマゾンの熱帯雨林破壊は、主としてふたつの目的で行なわれている。バイオ燃料の生産、そして家畜飼料の生産である。農業従事者の組織「ビア・カンペシーナ」によると、「パラグアイでは、農地の4分の1が大豆の単一栽培で占められ、ブラジルでは1995年以降、年に32万ヘクタールのペースで拡大している。すでに農地の半分が大豆栽培用となっていたアルゼンチンでも、さらに1996〜2006年のあいだに非農地だった5~6百万ヘクタールが大豆栽培用地となった。こうした開発が南米の人々と環境に甚大な影響を与えていることは膨大な資料が裏付けており、多数の関係者の知るところとなっている」(注6)。


 化学肥料で育てられた穀物や採油植物は大西洋を越え、その後は大手企業系列の貯蔵庫に移され、濃縮食糧に加工される。2005年には、汚臭を放つ暗いコンクリートの家畜倉庫に大量の豚と鶏がぎゅう詰めにされ、これら12億5千万トンもの飼料を食べ尽くした。


 世界中の加工工場やスーパーは、こうした精肉工場から肉を仕入れている。「合理化」のもと、原料生産からと殺・加工を経て流通まですべての工程においてコストを最低限に抑えるため、人手を減らし、作業の自動化、コンピューター化を図り、製品を規格化し、(この部門の専門家の言葉を借りれば)くず肉を「鉱石」にリサイクルして低価格の総菜を生産する。まさにアグリビジネスと巨大流通からの要望に応えるためのやり方が実施されているのだ。


 今ではもう「動物」という概念さえも通用しない。車の部品を組み立てるかのようにして原料からソーセージが作られる。だが、「原料」となっているのは命ある生き物で、概して劣悪な環境で飼育されている。実際、純然たる農学研究の結果によって作られたこうした家畜たちは完全に異常をきたしている。品種改良に品種改良を重ねて筋組織が早く発達するよう「磨き上げられた」家畜たちは、繁殖力を高めるために薬漬けにされている。その代わりに免疫力が最低ぎりぎりに低下し、本来の機能を果たせない。病気に対する抵抗力を失い、動物たちは虚弱体質になってしまったのだ。病気に感染するのを防ぐため肥育場に暖房を入れても、たいてい感染症を防ぎきれずに抗生物質を頻用することになる。


 こうしたタイプの動物搾取は、有機資材となる(入れました)糞尿の生成と除去に関わる環境問題をも引き起こしている。窒素とりんの危険な混合物が専用散布機で撒かれるが、飽和状態となった土壌はそれを吸収しきれない。特にブルターニュでは、藍藻による水源汚染と緑藻による沿岸の汚染が起こっており、どちらも養豚工場が原因で慢性化している。


伝統的放牧との融合を模索


 かつては、現地で得られる飼料の量をもとに家畜を飼育する、というのが伝統的な飼育法だった。放牧というやり方は反芻動物が踏み荒らす牧草の再生を図るために特に重要だったし、地質と水質に悪影響を与える糞を一カ所に集中させないためのものでもあった。自然放牧は穀物や野菜の栽培と緊密な共同関係にあった。えんどう豆やルピナス、そら豆の豊かな収穫の刈り残しが良質な馬草となり、調和していた。藁が家畜たちのトイレの砂の役目をしてくれていた。堆肥は土を肥やしてくれていた。食物連鎖が循環していたのである。


 新世代の農家たちは環境を損なわないで良質な食材を地産することにこだわっている。彼らは先祖伝来の技術に着想を得、それを学び、試行・改良し、時代に合うものにした。こうした農家の一部は混農林業にも進出している。植林によって暴風や強い日差しから田畑が守られるのだ。樹々が肥沃な大地を育て、その根が苗に水分を保ってくれる。FAOはずっとこうした方法を奨励してきのである……。






(1)«La situation mondiale de l’alimentation et de l’agriculture», Organisation pour l’alimentation et l’agriculture (FAO), Rome, 2009.
(2)Jean Ziegler, «Quand le riz devient un produit financier», Le Monde diplomatique, février 2012.参照。
(3)「食糧価格高騰で貧困に追いやられる人が4千400万人増加した」世界銀行プレスリリース(2011年2月15日、ワシントン)。
(4)«Le massacre de l’Amazonie : l’élevage bovin, premier criminel en pleine expansion», Greenpeace, juillet 2009.
(5)«Du hamburger aux Indiens du Brésil», Survival France, janvier 2010.
(6)«La Banque mondiale finance l’accaparement des terres en Amérique du Sud», Via Campesina, 7 juillet 2011.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年4月号)