女性への暴力が憤激を呼ぶ

苛立つ新しいインド


ベネディクト・マニエ

ジャーナリスト

著書に『女性がいなくなる時 インドとアジアにおける女児の選別中絶』(未邦訳)
Bénédicte Manier, Quand les femmes auront disparu.
L’élimination des filles en Inde et en Asie,
La Découverte, Paris, 2008. がある。


訳:上原秀一


 この糾弾は犯罪の恐ろしさゆえに起きた、例外的なものだろうか。ニューデリーの女子大生強姦殺人への抗議デモには、人々の精神構造が変化することへの期待が秘められている。しかし一方、容疑者に対する公正な裁判が欠如しているという良くない兆候もある。当局は、かつてないほどの熱意で行われた派手な抗議行動に直面して、最速で対策をとろうとしている。[フランス語版編集部]




女性の社会進出


 レイプ事件に抗議する大規模なデモが連続して起こっている。首都ニューデリーでは前代未聞のことだ。数万人の男女が何度も結集し、被害女性の受難に対する怒りの声を上げている。23歳のこの女性は、強姦されて重体となった後、2012年12月28日に死亡した。


 デモに参加しているのは主に中産階級の若者だが、それは何よりも被害者がその一人だったからである。被害者は下層農家出身の大学生である。社会的上昇中の世代にふさわしく首都ニューデリーの大学で学ぶために地方から出てきたのだ。グローバリゼーションの時代に生まれたこの世代の若者は、中には外国留学を経験する者もあり、総じて経済的に自立している。この世代はまた、大学でも職場でも男女平等を初めて経験した世代である(大学には男子学生とほぼ同数の女子学生がいる)。過去10年間の高度経済成長によって、実際に女性の雇用機会が拡大してきた。2005年に290万人の女性就業者を数えていた公共部門に加えて(注1)、女性は、コンピュータ産業や航空産業、医薬品産業などといった追い風の吹く部門に進出していったのである。例えば、女性は、コンピュータ産業の正規雇用者300万人のうちの32%を占めている(注2)。労働力人口全体に占める女性の割合をみても、1981年の19.7%から2011年には25.7%へと増加している。


嫁不足に悩む若い男たち


 このため、今回のレイプ事件は、こうした都市部のマイノリティがある種の精神的浄化を求めるきっかけになった。デモにおいては、許し難い男性支配を拒絶するという態度が表明された。12月に公の場に突如現れたのは、家父長制の伝統によって形作られた影のインドと、自由な青少年によって象徴されるかの有名な「シャイニング・インディア(輝くインド)」(注3)との文化衝突にほかならない。


 首都を擁する北西部地域には、いまだに家父長制文化が色濃く残っている。しかもこの北西部地域は、フィーティサイド・ベルト(人工中絶地帯)とも呼ばれ、女の赤ん坊の人工中絶が最も多い地域をなしている。女性の低い地位は、男子選別出産という形をとって受胎のときからすでに始まっているのである。息子は家の名と財産を継承してくれるが、娘は無益と考えられるか、あるいはさらに有害とまでみなされている。娘を結婚させるためには、家族が数年にわたって借金を背負うほどの持参金を支払わなければならないからである。こうして男子をえり好みするせいで、1994年の法律で禁止されている選択的な人工中絶が実際には何百万件も行われているのである。その結果、インドでは、男子1,000人に対して女子940人というアンバランスな人口構成が続いている(注4)。


 夫による家庭内暴力の多さも、こうした男性支配の伝統によって説明できる。既婚女性の37%以上が夫から性的暴力や身体的暴力を受けていて(注5)、夫が妻の実家からより多額の金をせしめようとして持参金をめぐる犯罪にまで発展するケースが年に7~8千件を数える。これは警察への届け出件数であり、実際の件数はこれよりもはるかに多いはずである。レイプ事件に目を向けると、インド国家犯罪記録局(NCRB)は1990年から2008年までの間にその発生件数が倍増したとしている。公式データによれば、20分に1回の割合でレイプ事件が発生していることになる。


 レイプ事件の倍増を男が余っているせいだということだけで説明することはできないにしても、両者はおそらく無関係ではないだろう。これら二つの現象の間に統計上の確実な相関を認めることはできないが、住民たちは両者を結び付けて考えている。フィーティサイド・ベルト(パンジャーブ州、ハリヤーナー州、ラージャスターン州等)の村々では、嫁不足に悩む若い男が集団レイプ事件を引き起こし、診療所の医師がひっきりなしに当局に報告するという状況にあり、多くの家庭では娘を一人で学校や畑仕事に行かせるのをやめるようになっている。


 性的暴行の背後にカースト制度の因習が認められることもある。特に農村部においてそれが著しい。ダリット(不可触民)の女性は、女性というハンデとアウトカーストというハンデを二重に背負う犠牲者であり、高位カーストの男から頻繁に暴行される。たいていの場合、彼女たちだけがレイプの苦しみを一身に背負うことになる。犯人は罰せられないし、世間は見て見ぬ振りをするからである。今回のニューデリーの事件がこの力関係を変えることになるのだろうか。


無能な警察と国家への怒り


 首都ニューデリーの公共交通機関では性的な嫌がらせが蔓延している。大学のキャンパスや郊外の鉄道路線、夜間のバス停などではレイプ事件が増加している。ニューデリーにおけるレイプ事件の届け出件数は、2011年572件と他の大都市の合計を上回る多さである(ボンベイ221件、カルカッタ46件、マドラス76件、バンガロール97件、ハイデラバード59件)(注6)。


 性犯罪の都市集中化に伴い、マスコミ報道のおかげで性犯罪が以前よりも顕在化するようになってきた。その結果、大都市では女性専用の民間護身術教室に受講生が殺到した。プラティバ・パティル前大統領[インド初の女性大統領――訳注]も、「身を守る最善の手段は護身術」(注7)という考えから、在任中、女性がマーシャルアーツを身につけるようしきりに訴えていた。ニューデリーでは、護身術の授業を設ける公立女子校が次第に増加している。


 しかし、インドのレイプ事件が他国と比べて例外的に多いというわけではない。インドとは異なる文化的背景にあってもレイプの発生件数が多い国はある。例えばアメリカでは、12歳以上に対するレイプ事件の記録が2010年には18万8,380件に上っている(注8)。フランスでは、毎年7万5,000人の成人女性とこれとほぼ同数の未成年女性がレイプの被害に遭っている(注9)。被害者が勇気をもって語れるようになるためのいくつものキャンペーンが予定されている。昨年11月にフランスで発表された反レイプ宣言の表現によれば、「恥辱を受けるのは加害者の番」と訴えるキャンペーンである。


 しかし、インドでとりわけ市民の反発が強いのは、他国と異なり、被害者からの事情聴取の在り方がほとんど改善されていないからである。屈辱的な尋問を受けることになるので被害届を出すこと自体が試練の一部になっている。それでも結局は犯人の逮捕も有罪判決も保障されはしない。例えばニューデリーでは、2012年の1月から11月までの間に635件のレイプ事件で754人の男が起訴されたが――この数字から集団暴行の存在が明らかだ――、たった一人しか有罪になっていない。他の被告に対する裁判は大部分がまだ終わっていない(注10)。


 激化する抗議行動に直面して政府が女性警官の増員と犯罪者の厳罰化を約束したのは事実だが、暴行事件の増加を抑えられない治安当局への重大な不信感はそれだけではぬぐえないかもしれない。デモ参加者の怒りは、犯罪者だけでなく、役割を果たさない警察と国家にも向けられている。


新しい格差と社会全体の進化


 今回の抗議行動が政治的な震源を持つことは明らかだ。2011年にアンナ・ハザレ氏が始めた汚職撲滅運動(注11)における不満の表明に呼応しているのである。このときからすでに都市の中産階級が大量にデモに参加するようになっていた。これら二つの運動は、経済・文化面での新興階級と、国の問題を前に――党派を問わず――無能でありしかも頻繁に汚職に関与する支配階級との間の意識のずれが増大していることの現れである。


 二つの運動はまた、教育のある新世代が公的な場に登場し定着したことをも意味している。新世代は、マスコミを利用したり、ソーシャルネットワークサービスを使ったり、説得力のあるスローガンを見つけたりする力を持っている。中間層の間に一つの集合意識が現れたのは、最初のうちは消費生活と高等教育をめぐってのことであったが、今日では中間層は国家の安全と実効性を求める熱意を共有しているのである。今回の運動によって、将来のよりいっそう進歩主義的な社会規範への期待が生まれつつある。この運動は、社会全体の進化にとって決定的な役割を果たすことになるだろう。


 しかしながら、こうした中産階級はいまだに少数派であり、社会全体の変化には時間がかかるだろう。そもそもインドは変化の速度がばらばらな社会である。女性が男性と同じように産まれ、きちんと養われ、学校に行き、尊重される権利を持っていないという観点だけでそう言うのではない。インドにおける経済発展の不平等の根は深い。経済発展によって栄養失調が撲滅されたわけではなく、37%以上の人々がいまだに絶対的貧困の状態[人間として最低限の生活をも営むことができないような状態――訳注]で暮らしている。同様に、経済成長によって水道をはじめとするインフラが国全体で整備されたわけでもない。経済成長のせいでむしろ都市と地方の間の不平等が拡大しているのである。


 したがって、以前から言われてきた現代性と家父長制との間の亀裂や民衆と政治エリートとの間の亀裂に加えて、新たに別の深刻な格差が生じている。新しい富裕層と経済成長に乗り損ねた人々とが分断され、豊かな地域と貧しい地域とが、そして都市と農村とが分断されているのである。こうした格差によって、農村人口の大量流出が加速し、都市の膨張による混沌が生じ、犯罪の温床が作り出されている。しかし、特に言えるのは、インド社会のこのような様々な亀裂が遠からず社会的にも政治的にも限界に達するかもしれないということである。


 レイプ事件が呼び覚ました怒りに答える気があるのならば、インド政府は、警察を増強し、法律を改正して正しく運用し、古来の差別と戦うNGO(非政府組織)を支援しなければならないだろう。インド事情の専門家であるクリストフ・ジャフルロ氏の言葉を借りれば、もっと幅広く社会経済の「不十分な発展」に真剣に取り組まなければならないということになる(注12)。国が介入するだけで人々の精神構造が変わるというわけではないが、政策が社会進歩の方向に沿っていれば、むしろそれが女性全体の運命を好転させることにもつながるかもしれないのだ。





(1)インド労働雇用省。
(2) «Government should do its part in ensuring safety of women in IT-BPO sector : Nasscom», The Economic Times, New Delhi, 4 janvier 2013.
(3)2004年の総選挙で当時の与党インド人民党(BJP)が経済成長を讃えて掲げたスローガン。[訳注]
(4)次の地域では男子1,000人に対する女子の人数が全国平均の940人よりも少ない。パンジャーブ州は893人、ハリヤーナー州は877人、ラージャスターン州は926人、ニューデリーは866人である。
(5)International Institute for Population Sciences, « National Family Health Survey (NFHS-3)», Bombay, 2007.
(6)出典:インド国家犯罪記録局(NCRB)。
(7)«Teach girls martial arts for protection : president», IBN Live, 2 novembre 2011, http://ibnlive.in.com
(8)アメリカ法務省犯罪被害者局(ワシントンDC)www.ovc.gov
(9)www.contreleviol.frを参照。
(10)«One conviction out of 635 rape cases in Delhi this year», The Indian Express, New Delhi, 30 décembre 2012.
(11)74歳の社会活動家アンナ・ハザレ氏は、2011年4月に汚職撲滅を求めて抗議の断食を行った。これを支持する抗議行動が全国に広がった。[訳注]
(12)Christophe Jaffrelot, Inde, l’envers de la puissance. Inégalités et révolte, CNRS Editions, Paris, 2012.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年2月号)