最新の魔術的ソリューション、3Dプリンター

テクノロジーによる見せかけの解放


ヨーハン・セダバーグ

社会学者

イル=ド=フランス《探求・イノベーション・社会》研究所(IFRIS)
パリ東部大学、技術・国土・社会研究所(LATTS)


訳:鈴木久美子


 最近、3次元レベルでプリンターの働きをしてオブジェクトを作る電子機器が一般の人にも入手可能になった。この機械は新たな産業革命の引き金になるだろうと考える先端的なひとたちを熱くする。しかし、こうした専門的な日曜大工ツールをもてはやす人たちは、これが生まれた歴史的背景を往々にして忘れがちである。このツールは工場の生産管理から生まれてきたものである。[フランス語版・日本語版編集部]




 これは21世紀の産業革命になるかもしれない。かつては店で買わなくてはならなかった製品が、これからはレーザー・カッター、3Dプリンター、コンピュータ制御のフライス盤などによって自宅で作られるようになるかもしれないのだ(注1)。こういった機械はみな同じ技術原則に従っている。それはソフトウェアを使って機械装置を動かすということだ。こういった機械のなかで最も知られているものはプリンターとして動くものだが、3次元で動く。次々に1本のノズルが3次元を移動し、デジタル化されたモデルに従って材料(合成樹脂が最も多い)を層状に重ねて、望み通りの形にしていく。ドア・ノブから自転車まで、こうして作られる物は増えている。


 この技術によって創造性のある中小企業が増えるかもしれないが、もともとこの技術が発達したのは「メイカーズ」と自称するアマチュアによるものづくりである。彼らはフリーソフトの世界の住民であり、フリーソフトの利点を製作プロセスに応用している。メイカーズの中で最も先端を行く人たちは、主に3Dプリンターのような道具を大衆化にすることよって工業製品製造の「民主化」に道を開くと考え、将来的には消費社会をなくすことを狙っている。別の人たちは労働費用を下げようとしており、そうやって発展途上国への製造業の流出を止めようとしている(注2)。企業に近い後者の見解は『メイク』という専門誌に明確に表れており、彼らは雑誌以外の活動として、毎年アメリカの主要都市で「メイカー・フェア」を開催している。


 しかし、この展示会を見て回るだけで新しい産業革命の中に響く不協和音がわかってくる。『メイク』の2011年版が出版された時、ニューヨークで公開された数々のアトラクションの中で「プリント村」を見学することができた。20ほどのブースが3Dプリンター「レップ・ラップ」ばかりでなくレップ・ラップで作られたものを扱っていた(この運動のエムブレムである「レップ・ラップ」は自身の構成部品のほとんどを再生産することが可能で、いわば、自己再生産が可能なのである)。


労働者の怠業管理


 この展示からそれほど離れていないさらに規模の大きいパビリオンでは高性能デジタル制御装置を囲んで数々の展示をしていた。誇らしげにアメリカのトリコロールの旗を掲げた展示は群を抜いて目立っている。それは職人たちの同盟であるアメリカ製造業同盟の展示で、その主力メンバーのひとつは鉄鋼業の組合であるユナイテッド・スティール・ワーカーズ(USW)である。そこでは訪れる人たちにアメリカ製品を買って雇用を守ろうとさかんにアピールしていた。コンパニオンが「アメリカで生産を続けよう」と書いたバッジを配っていたが、彼女はこのパビリオンに見られる皮肉な現実を認めざるを得なかった。事実、隣のブースに展示されている機械は工場労働者の雇用崩壊を引き起こした技術の直接の後継者だからだ。


 冷戦下でデジタル制御装置は生まれた。研究者のデービッド・F・ノーブル(注3)によればその発展には一部、軍の資金援助を受けていたという。このテクノロジーはソ連と闘う上で重要だったが、内部の敵も武装解除することが目的だった。内部の敵とは労働組合である。工場労働者たちが持っている技術情報のおかげで労働組合は勢いを増してきた。フレデリック・W・テイラー[「テーラー・システム」の発明者。訳注]が著書『科学的管理法の諸原理(1911)』の中で率直に述べているように、「経営者は受け継がれてきたすべての生産上の知識と伝統的な技能を集成する (…) 労を執ることが必要である。過去にはこの知識やコツは労働者のものであった。経営者がこれを集成するというのは、こうした知識を分類・命名して、規則・規範・規格の体系にまとめることである。この規則・規範・規格の体系は労働者の日々の労働に大きく貢献するだろう」。テイラーの本のこのくだりに先行するページでは労働者たちが全力で働いているようなふりをして、いかに雇い主をだますかを描写している。


 怠惰で不真面目な労働者を見つけ出すために、テイラーは比較の基準となる平均的労働量の目安を決めようとした。しかし、一人一人の生産性を調べるのに必要な技術者を雇うことは高くついたし、工場労働者たちはすぐにその技術者をも欺く方法をおぼえてしまった。そうこうしているうちに、労働方法の再編成によって期待された生産の均一化が別のやり方でも可能になっていた。機械の中に自己コントロール機能を組み込んでしまうのだ。19世紀初頭、イギリスの数学者チャールズ・バベッジは工業の様々な分野を調べて、雇用者が不在でも使用人・労働者たちがまじめに働くような機械類の一覧表を作り、こうした「機械の傑出した利点」をたたえた。それは「機械によって人間の不注意、怠慢の監視」(注4)が行われるからである。このバベッジとは、後に「コンピュータの父」と呼ばれるようになったまさにあのバベッジである。というのも、彼が最初に考案した計算機は、そこに分析装置を組み込んでおり、1世紀後にデジタル機器で用いられるようになるのと同じカードを用いているからだ。


 デービッド・F・ノーブルは強調する。「オートメーション化で難しいのは装置が自律的に動くようにすることだ。つまり機械が製造プランによる指示を遂行するにあたって労働者の介在を受けないこと、つまり機械に不可欠な融通性を損なわないことだ。 (…) そこにプログラミングの必要性がある。プログラミングは《可変性のある》ソフトウェアを用いて、部品を変えたり形状を調整したりするのに人の手を借りることなく製品の仕様変更を可能にする」というのだ。エンジニアたちは全自動化された工場という夢が現実化しようとするのを目の当たりにした。他の付随的な動機もデジタル制御機器の発達を促した。それは手作業では容易に作られないものを作りたい欲求とか、生産性向上への意欲とか、さらにはマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちのテクノ・ユートピア・ビジョンを実現したいという構想だったりした。MITの研究者たちはソフトウェアと機械の主たる発案者たちになる。しかしながらノーブルが述べるように、他の道筋があったかもしれず(注5)、そうした道筋を辿ったならば工場労働者たちにとって全く別の結果となったかもしれないが、意図的に遮られてしまった(注6)。


メイカーたちと労働者


 3Dプリンター「メイカーボット」の宣伝には支離滅裂な話がついて回る。それによればこの「革命」のおかげで、解雇された工場労働者たちが自営のメイカーズに転業して創造的で革新的な仕事をまた見つけることができるようになるだろうというのだ。この戯言は、この道具(デジタル制御機器や3Dプリンター)の産業史的な意味を隠蔽していて意味をなさない。自営での製造で労働者たちは技能や独創性をわが物とすることができるかもしれないが、工場労働がこんなに思考能力を麻痺させるものになりさがってしまったことはあまりないということを忘れている。さらにデジタル制御は生産組織の中に高度な技術力を再び導入することになるだろうと言われていたのに、実際は工場での労働意欲をそぐものにしたことも忘れている。


 したがってメイカーたちは労働運動の継承者ではなくて、むしろ労働運動否定の歴史的成果なのである。こういうわけでメイカー運動で知られる人々の多くはデジタル制御装置の創案に大きな役割を演じたMITの出身者だ。このルーツはメイカー運動の「抑圧された無意識」のように現れる。ちぐはぐな形でしかもどってこない記憶だ。その証拠に、まるで強迫観念のように、メイカー運動の審美的リビドーは廃屋となった工場や壊された後の空き地の風景に向けられている。デトロイトはかつてアメリカ自動車産業の中心だったが産業の空洞化のシンボルへと姿をかえざるを得なくなった。デトロイトは絶えず雑誌『メイク』やメイカー運動のブログに登場する(注7)。


新たな問題――知的財産権と賃金低下


 ものづくりの歴史をこのように回顧してみると大企業での知的財産権の問題が持ち上がってくる。法学者のキャスリン・フィスクはアメリカの企業対従業員の間で起こったアイディアの所有権に関する数々の訴訟の一件書類を子細に調べ上げて、知識の移転にまつわる一つの型があることを明らかにした。19世紀初頭まで、工場労働者の作業から得られた発明はすべて工場労働者に帰属していた。仕事の場で得た知識は労働者が転職するときには自分で自由に使うことができた。自由で優秀な特に白人労働者の頭脳を雇い主のものにしようという企みはしばしば裁判で却下され、奴隷制に例えられた。しかし技能がコード化されると力関係が逆転し始め、企業に有利に働くようになった。そして、企業は労働者のアイディアを法的にわが物にした(注8)。


 著作権へのオールタナティヴなアプローチという実験的な動きが見られ――作成者が自作品の再配布や改変を奨励しているフリーソフトがあるが(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)――これは前述の工場労働の歴史につらなるものである。それで一部の研究者はオープンな作業プラットフォームが惨憺たる結果を引き起こすのではないかと懸念している。場合によっては労働者たちの自己搾取に拍車をかけるのではないかということである。現実となった予言がある。たとえば、データを取るのにクラウドソーシング(注9)に頼っている企業もあるが(注10)、アマゾンのクラウドソーシングのサイトで働く「従業員」の平均収入は、たとえば写真に載ったオブジェクトや人物をアイデンティファイする仕事で、実際、時給1.25ドルになるという。つまり1ユーロだ!(注11)


 3Dプリンターの宣伝に携わる人たちが「3Dプリンターは労働の世界を変えようとしている」と予告したが、この重要性についてはこのコンテクストの中で判断されなければならない。メイカーたちは、個々の非正規雇用者の台所のテーブルに置かれた3Dプリンターを全部インターネットでつないだ「製造ネットワーク」をめざしているのである。これは産業における賃金の大幅値下げを引き起こす恐れがあるのではないだろうか? 《レップ・ラップ》プロジェクト推進者で3Dプリンターのブームを引き起こしたエイドリアン・ボイヤー氏は「これは工場労働者にとってそれほど悪いニュースではないかもしれない。というのも、彼らは店で各自が同じ製品を買う必要がなくなるからだ(注12)」と語る。ここにデジタルによるものづくりが一般に浸透した将来に起こるであろう富の再分配をめぐる社会闘争がかかわっている。富の分配に対する異議申し立てが製造部門から消費部門へと移り、さらには消費者が自由に使える道具へと移る。しかしこのような消費者の生産ネットワークの構想は工場でデジタル制御が行われた時と同様の対立のタネとなるだろう。


 メイカーたちのなかにはネットと連携した商品生産のアイディアをもつ者がいる一方で、企業家、投資家、知的財産権専門の弁護士は全く正反対の立場に立つ機械の開発に力をそそぐ。企業家たちは消費財として売れる「印刷の準備のできた」製品――プレタ・ポルテならぬプレタ・アンプリメ(「即、印刷可能」を意味する)な製品――を作ろうとする。機械そのものはカタログに載っているものしか作れないだろう。またもや、知的財産権が収入の問題に密接に関連する。両者の闘争の記憶が抑圧されてしまったとしても、この問題はフリーソフトに関する議論だけでなくメイカー運動においても同じことが起こる。1981年にIAM(国際機械技術者協会)によって出された労働者の技術の権利宣言に立ち返らなくてはならないだろうか。この宣言はコンピュータによって制御された機械が産業界に導入されたばかりの状況下で書かれたもので、こう述べている。「自動化の新しい技術とそれが立脚する科学は何世紀にも及ぶ世界中の知識の積み重ねの成果である。したがって、労働者と労働団体は未来に関わる決定と利益にあずかる権利を有する」。





(1)The Economist, Londres, 21 avril 2012. Lire aussi Sabine Blanc, «Demain, des usines dans nos salons», Le Monde diplomatique, juin 2012.
(2)Lire Laurent Carroué, «Industrie, socle de la puissance», Le Monde diplomatique, mars 2012.
(3)David F. Noble, Forces of Production : A Social History of Industrial Automation, Transaction Publishers, Piscataway (New Jersey), 2011 (1re éd. : 1984).
(4)Charles Babbage, Traité sur l’économie des machines et des manufactures, Bachelier, Paris, 1833.
(5)生産性を上げて工場の利益を上げ、それを工場労働者へボーナスという形で還元することによって労使間の争いも減るという考えもある。[訳注]
(6)Philip Scranton, «The shows and the flows : Materials, markets, and innovation in the US machine tool industry, 1945-1965», History and Technology, vol. 25, no 3, septembre 2009.
(7)Sara Tocchetti, «Diybiologists as ‘makers’ of personal biologies : How Make magazine and Maker Faires contribute in constituting biology as a personal technology», Journal of Peer Production, no 2, 2012. Cf. aussi Steven C. High et David W. Lewis, Corporate Wasteland : The landscape and memory of deindustrialization, ILR Press, Ithaca, 2007.
(8)Catherine Fisk, Working Knowledge : Employee Innovation and the Rise of Corporate Intellectual Property, 1800-1930, University of North Carolina Press, Chapel Hill, 2009.
(9)開発のプロジェクトにおいて、専門家ではない一般の大衆をネット上で募集して業務委託すること。無償もしくは低賃金が多い。[訳注]
(10)ピエール・ラジュリ、「インターネットの激安労働者」、『ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版』2006年8月号、http://www.diplo.jp/articles06/0608-4.html
(11)Lilly Irani, « Microworking the crowd », Limn, http://limn.it
(12)小学一年生からリセ最終学年の間に少なくとも一度は行われた筆者との対談による。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年1月号)