アメリカ大統領選、接戦の理由――国家への不信感

セルジュ・アリミ*

*ル・モンド・ディプロマティーク編集主幹

訳:鈴木久美子


 民間金融機関の危機が起こり、一般納税者のおかげで破綻から救われてから、まだ4年しかたっていない。投機で財を成した候補者のホワイト・ハウス入りの可能性はまずないはずだった。しかしアメリカの大統領選挙の行方は最後までわからない(注1)。この接戦はおそらく経済活動への政府介入に対して高まる不信感によって説明することができる(注2)。この不信感にはいくつか理由がある。


 まず赤字財政に対する怒りである。この怒りを扇ったのはアフガニスタンとイラクへの軍事支出が同時期に重なったこと、銀行への巨額資金の注入が行われたことによるが、そればかりでなく大規模な不平等減税がある。その結果、公的債務の問題が最も重要な政治課題となった(注3)。以来「何とかしたいのは山々だが、資金がない」と嘆く人たちに加えて、政府と私企業との癒着を疑う人たちが増大した。かつての政治のトップたちがロビイストや大企業に招かれ、贅沢な高額講演者(本紙「トニー・ブレアー有限会社」Blair inc.を参照:注4)へと転身して政府の秘密を漏らしているのではないかと疑っているのである。官僚主義の混乱や企業に依存する政治家や不必要な大プロジェクト(注5)に対する従来からの不信感が今では金銭的腐敗に対する不信感によって10倍にもふくれあがっている。


 昔から国が民間事業に着手するのを止めるときの強力な決め台詞は「お役所がやると金がかかりすぎるし、うまくいきませんよ」だった。それに加えて、議員たちが国民から離れてしまって、腐敗して、少数者の利害しか頭にないので、国民の福祉はあてにならなくなっていると国民が思い込んだらどうだろう? 自由経済を標榜する右派の共和党はこの不信感を利用している。そして、国を治め、国の「競争力」を高めるのには、企業や投資会社のトップとして力を発揮した経験がある人の方がよかったと国民に思わせるのである。(注5)


 しかし民間企業でも不正は多いし浪費も多い。数え切れないほど多くの技術者、会計専門家、そればかりでなく社会集団の経費を専門とする社会学者らが日々才能を浪費しているのは、車のボンネットの美しい曲線を考えたり、包装紙の光る装飾やたばこのフィルターを素晴らしいものにしたり、はたまた奇抜な保険を考えたり、税金を払わなくていい投資を考え出すことなのだ。こういった企業では利益が上がることが常に優先され、製品が社会でどう役立つかということが蔑ろとなっている。


 企業ではスキャンダルでトップがとばっちりを受けることもあり、他のトップが辞職に追い込まれることもある。 しかし、彼らのような金儲け優先主義を生み出した組織、彼らの権力のルーツとなった組織は問題にされない。これに対して、市長や大臣の不正行為や、ロビー活動に明らかに屈服したと思われる政治や、怪しげな選挙資金は、直ちに国全体に対して悪影響が及ぶ。増税をし、国をまとめ活性化しようとするにあたって、国の正当性を覆すからだ。


 世界の至る所で、苛立った国民は変化を望んでいる。しかし国民の意図を実現するための手段が、過去にも現在にもないので、人々は足踏みし、ためらい、停滞し、時には後退もする。こうして国民の希望がすべて妨げられるのである。





(1)本記事はアメリカ大統領選挙前に書かれた。[訳注]
(2)Manière de voir、125号『アメリカはどこへ行く?』2012年10−11月号 
(3) Lire << Une dette providentielle...>>, Le Monde diplomatique ,decembre 2009.
(4) Ibrahim Warde :«Blair Inc.» Le monde diplomatique, novembre.2012
(5) 共和党の大統領候補ロムニー氏は実業家の出身であった。[訳注]
(6)Lire Alain Devalpo, ≪ L’art des grands projets inutiles ≫, Le Monde diplomatique, août 2012.

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電 子版2012年11月号)