欧州サッカー・クラブ、タテマエだけの平等

ダヴィッド・ガルシア

ジャーナリスト

訳:木下治人


 2011年、プラティニ氏が欧州サッカー連盟(UEFA)会長に再選されたことにより、改革路線がさらに進もうとしている。しかし、平等の理念を実現しようとする努力とは裏腹に、「サッカー・ビジネス」化の流れに翻弄されている姿が浮かび上がってくる。ほとんどのクラブは経営がピンチに陥っている。赤字が解消されないと、チャンピオンズ・リーグという最も権威ある大会、すなわち世界一を決するクラブ選手権大会に出場することが禁じられる可能性があるのだという。「ユーロ」の歴史的登場によって人的交流はますます自由になった。それは欧州経済危機と絡み合いながら、サッカーの平等理念がさらに脅かされているように見える。[日本語版編集部]

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理想と現実

2003年 3月。欧州サッカーを管理運営する欧州サッカー連盟(UEFA)は、ブダペストの会議で強豪クラブの陳情を冷ややかな態度であしらい、権力と金に執着する姿を指弾している。決議ではこう言っている。「サッカーは平等・チャンス・情熱・多様性を旨とすべきである。金持ちや権力者だけが参加できる閉鎖的なスポーツであってはならない。各国の弱小クラブ、小リーグそしてサポーターたちが自分たちの夢を実現するチャンスを全くもてないような組織やシステムは、わが連盟は認めない。こういったことは、欧州サッカー連盟とヨーロッパの理想、そしてサッカーがめざす理想とはかけ離れている」。

2012年4月。欧州サッカーを席巻しているのは潤沢な資金力を持つスペインのサッカー・クラブである。欧州サッカー連盟主催の「チャンピオンズ・リーグ」と「ヨーロッパ・リーグ」に勝ち残った8クラブのうち5つがスペインのクラブである。チャンピオンズ・リーグではFCバルセロナとレアル・マドリードの2クラブが、ヨーロッパ・リーグではアトレチコ・マドリード、バレンシアCF、アスレティック・ビルバオの3クラブである。サッカーがスペインでこんなに強い背景には、クラブに対する巨大な財政上の厚遇措置がある。失業率20%を越える国の現状からすれば、スペイン右派政権のこの寛大な措置は受け入れるのが難しい(前サパテロ社会労働党政権の時以来導入されている)。スペイン政府は、サッカー・クラブが国に払うべき 7億5200ユーロを回収しようとしない(健康保険に払わなければならない約2500万ユーロを除く)(1)。「スポーツの試合においては、各チームが不平等であってはならない。税金を払わないサッカー・チームが試合に出ることは許されない」(2)とスペイン社会労働党(PSOE)のスポークスマン、マヌエル・ペッチ氏は批判している。このことが原因となって、滞納しているサッカー・チームが試合に出られないようにするための法案を準備している。

 

「各チームの平等はどうなっているのか」?欧州サッカー連盟事務局長ジャンニ・インファティーノ氏は懐疑的な態度を隠さない。「完全な平等なんて机上の空論なんですよ。実際、赤字が増えて負けるクラブがあるんです」と言い切る。2010年末の時点で、欧州サッカー・クラブ一部リーグの赤字は16億ユーロに達していた。ことは簡単だ。資金が潤沢であればあるほど、そのクラブは良い選手を引き止めておけるので、タイトルをどんどん取れる。試合を決める「栄光の不確実性」をほどほどにおさえることができるのだ。

プラティニ改革、「フェアプレー財務」の行方

 フランス人のミシェル・プラティニ氏は、2011年3月、熱狂的な支持を受けて欧州サッカー連盟会長に再選されたあと、クラブが「フェアプレー財務」(FPF)規則に従って試合に臨むよう指導することを約束した。「借金しないでも経営できる、正常な財務管理を教えなければなりません。一般社会では、もし借金が返せなかったら監獄行きになりますから。サッカー界では、借金をしてスター選手を獲得するクラブのほうが、トロフィーを獲得しやすいのです。これは尋常なことではありません」(3)とローマの地で発言した。

特別措置はすぐになくせるのだろうか? いや、すぐにはできない。「フェアプレー財務」の規則では、年々500万ユーロの赤字しか認めていないが、緩和事項を付け加えている。したがって、2013年と2014年の最初の2回の検査では、総額4500万ユーロまで赤字は許容され、次の 3シーズン(2017年4月末)では総額3000万ユーロの赤字が許容される。欧州サッカー連盟執行委員会は、2018年以降の赤字の上限についてはまだ態度をきめるに至っていない。

 

「フェアプレー財務検査委員会」委員長である、元ベルギー首相ジャン=リュック・デハーネ氏は、次のように見ている。「委員会はクラブを援助する立場にあるが、しかしクラブが規則を遵守しないならば制裁する可能性があります。レアル・マジョルカに対して、2010年のヨーロッパ・リーグ戦から除外するよう要求した例があるのです。『フェアプレー財務』規則適用開始以前のことでした」。

 バレアレス諸島(スペイン自治州の一つ)のサッカー・クラブが除名されたことがあったが、スペインクラブ・チームより格下のため、社会的動揺はまったく起きなかった(4)。しかし、スペインの雄レアル・マドリード、イングランドのトップクラブのマンチェスター・ユナイテッドFC、ドイツの雄FCバイエルン・ミュンヘンのような有名欧州サッカー・チームだったら、サッカー場から締め出すなんてことがほんとにできるだろうか?連盟会長プラティニ氏は、慎重な姿勢をとりつつ態度をはっきりさせていない。「数年前、皆さんは全国運営監視委員会がクラブ・チームを降格させるなどということを考えていましたか?たとえば、FCジロンダン・ボルドー(1991年)やオリンピック・マルセイユ(1994年)が2部に降格処分を受けるといったことです」(5)。プラティニ氏は、2011年 3月22日、再選をまじかにした演説でこのように主張していた。

したがって、フランス全国運営監視委員会(DNCG)に代わる組織、欧州サッカー連盟「フェアプレー財務・紛争処理委員会」は、チャンピオンズ・リーグの中で最も資金が多いクラブでさえも除名する権限を持っていることになる。「もしフランス全国運営監視委員会が厳密にこの規則を適用すれば、パリ=サンジェルマンFC(PSG)は、1部リーグにはいられなくなるだろう。しかし、連盟は罰則を適当に運用している」スポーツ・エコノミスト、ウラジミール・アンドレフ氏は説明している。実際、パリ・サンジェルマンFCはカタールの首長がオーナーなので、2011-2012年シリーズの終わりには1億ユーロの赤字を引き受けることになっているのだが...「名門クラブはチャンピオンズ・リーグを盛り上げる立役者たちなのに、試合をしなくなるなんてことがあるだろうか?」とアンドレフ氏は疑問視する。オリンピック・マルセイユのパパ・ディウフ元会長は言う「レアル・マドリードとチェルシーのいないサッカーの試合なんてだれも見ませんよ」。

 欧州サッカー連盟は、テレビ放映権から生じた 7億5400万ユーロという恐るべき財政力を保持し、チャンピオンズ・リーグ参加クラブに分配している(6)。しかし有名クラブに依存しつづけているのが現状だ。「欧州サッカー連盟は財政を握っています。しかしビッグ・クラブが、一斉に『フェアプレー財務』規則を拒否し試合をボイコットするなら、テレビ局にとってサッカーは魅力がなくなり、テレビ放映権収入はなくなって財政は破綻することになるでしょう」とエコノミストのミェル・デボルド氏は説明する。金の卵を産む鳥を殺すリスクが伴うのだ。「欧州サッカー連盟が放映権を独占し、チャンピオンズ・リーグという目玉商品を握っている。そうなんですよ、欧州サッカー連盟が連盟として存続できるのは、サッカーがもうかる商売だからなんです」とアンドレフ氏は指摘する。欧州サッカー連盟のお偉方がブダペストで誇った「サッカークラブの平等」は、風前のともし火ではないのか...

1992年に始まる「チャンピオンズ・リーグは、資金力のあるクラブの権利要求から生まれたもので、スポーツ固有の不安定なあり方を解消し、テレビ放映権の獲得を目的としたものである」とスポーツ地理学者ボリス・エルー氏は分析する。名門クラブは、閉鎖的で強いクラブだけの似たようなリーグをもうひとつ作るぞ、と脅しをかけて、欧州クラブ選手権をなくしてしまった。チャンピオンズ・リーグの前身は、1955年に、フランスのスポーツ紙『レキップ』の提案で始まったものだ。ヨーロッパ各国の国内リーグ王者による大会で、ホーム・アンド・アウェー、トーナメント方式で行われ、国の大きさ、財政力の強弱にかかわらず「一国一チーム」の原則に則っていた。

 欧州サッカー連盟は、大きな影響力を持つサッカー連盟 ― ドイツ・イギリス・スペイン・イタリア・フランス ― と各国メディアの圧力で,強豪国には4つのクラブの出場枠を認め、弱小国には成績の悪いことを理由にひとつのクラブしか出場を許可しない。さらに、弱小国は4回の予選に勝たなければ本来のトーナメントにすすめない。ところが、「金満クラブ」はわずかな例外を除いて、予選3戦目からの参加でよいために、タイトルを競うことが有利となり、その結果テレビ放映権料を独占することも可能となる。2005年、欧州サッカー連盟スポークスマン、ウイリアム・ガイヤール氏は、「十数年前からお金が試合の結果を左右するようになり、有名な試合に参加するクラブ数がだんだん限定されてきていることは確かです」(7)と認めた。

 1999年、欧州主要テレビ会社の首脳陣は、ACミランのオーナーであり、イタリア3民放テレビ局の社主であるシルヴィオ・ベルルスコーニ前イタリア首相を中心に、自らの強い立場を利用して、閉鎖的なサッカーリーグを作ると脅しにかかった。今回、欧州サッカー連盟は、このおどしに負けなかった。この失敗を教訓に、欧州主要クラブは翌年(2000年)、G14を設立した。この組織は欧州主要クラブの利益を守るため、サッカー連盟に圧力をかけるために作られたものだ。

 2007年、プラティニ氏は、「小国」や東ヨーロッパの国々の票を力に、欧州サッカー連盟会長に選ばれ、チャンピオンズ・リーグに参加する道を部分的にではあれ改善した。キプロスのチャンピオン、アポエル・ニコシアは、こうした開放政策にのって、2012年3月には準々決勝にまですすんだ。しかし、一流メンバーを揃えるレアル・マドリードの無敵艦隊に敗退した。50倍もの資金を擁しているからだ。2011年には、今まで影の薄かったFCコペンハーゲンが決勝トーナメント(ベスト16)にまで這い上がった。

プラティニ改革は、効果の面ではどちらかといえば象徴的な意味合いが強く、力の釣り合いは元のままであって、ビッグ・クラブには甘かった。彼が約束したこととは裏腹に、ナショナル・カップ保持者にチャンピオンズ・リーグ参加資格を与えていない。ビッグ・クラブのチーム数は自動的に減るはずだったものが、実際は、このように大国の権益を守ることになっている。G14は、プラティニ氏の努力に応え、2008年2月、進んで解散を受け入れた。G14参加の欧州主要クラブのほぼ全員が解散に賛成したことで、ヨーロッパのマスコミは、一致して欧州サッカー連盟会長としてのお手並みを歓迎した。彼は、「強者」から「弱者」を守る人物として高く評価されている。フランス経済紙『レゼコ』は、経済界寄りの立場から、ちょっとした皮肉を込めて警告する。「『スポーツ・ビジネス』の真の敵・ニセの敵」(2009年7月13日付記事)。

 かつて、フランス代表監督をしたことのあるプラティニ氏は、クラブとの良好な関係に基づいて「フェアプレー財務」改革をゆっくりと実行に移そうとしている。カール・ハインツ・ルンメニゲ氏は、G-14が発展的解消をとげ、新たに設立された欧州クラブ協会(ECA)の会長であるとともに、ドイツのバイエルン・ミュンヘンの総監督でもあるが、以下のようにコメントする。「私はこの改革案に初めから賛成しました。というのも、当時、ヨーロッパのサッカー・クラブは誤った方向にすすんでいたからです」。(『ルモンド』2011年1月25日付記事)

 サッカー関係者のなかには、より一層改革者としての役割を果たすよう、プラティニ氏に進言する人たちさえいる。国際プロサッカー選手会(FIFPRO)欧州部門のフィリップ・ピアト会長は、選手の移籍金に最高限度額を設定することを主張する。「世界最優秀選手といわれているロナウドやメッシを獲得できるのは四つか五つのクラブだけ」「ところが、この 2人が居れば、チャンピオンズ・リーグで決定的に有利なのです」という。こうしたことから、ピアト氏は移籍金に限度額を設定することを提案する。「たとえば1000万ユーロを限度に、選手がより多くのクラブに移籍できるようにする」という案だ。

 ジャン=ミシェル・オラス氏は、欧州クラブ協会(ECA)財務委員会共同会長であり、オリンピック・リヨンの会長をつとめるが、ピアト会長と同意見で、選手の給料と移籍の際のコミッションに制限をつけることを強く勧める。移籍費用は、平均でクラブ収入の3分 2に上る。ボスマン判決(8)の結果、プロスポーツ選手の労働市場は自由化し、選手の商品価値は20年前から急成長してきている。

プラティニ氏は、移籍金と給与総額に上限を設けることを検討している。ただし、「フェアプレー財務」規則に違反する場合に限って、クラブに「ペナルティー」として科されるというものでしかない。ありうるかも知れない改革の方式については、意識的にあいまいにしているといわれてもしかたがない。

「憤慨しています」。アンドルラ・ヴァシリウ氏(欧州委員会スポーツ担当委員)は、2011年 1月の移籍に苦言を呈す。フェルナンド・トーレス(スペイン代表選手)のリヴァプールFCからチェルシーFCへの移籍金が5800万ユーロだったからだ。同委員は、選手の移籍を正常化するための「研究」に着手することを発表した(9)。しかし、いかんせんサブシディアリティの原則(10)のため、限界がみえる。「クラブの財政健全化に向け、評価基準を厳しくすべきなのはわかります。しかし、各国が抱える法的伝統及びスポーツの伝統を尊重する考え方を基礎に、それぞれの国にとって最も良い方法を見つけることが必要なのです」と述べた。加盟国の主権を尊重するとして、「不干渉主義」を杓子定規に適用することしかできない欧州委員会...われわれは、不平等の問題を解決しようとしているのではなかったのか?

    

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電 子版2012年6月号)